新緑の癒し手
否定はしない。
だけど、難しい。
フィル王子の言葉に、フィーナは改めてこの恋愛の難しさに気付かされる。普通の者同士のように恋愛感情を抱いたから勇気を出して相手に告白し、受け入れてくれたら付き合うという簡単なものではない。それなら人間同士であったとしたら、上手くいっていたのだろうか。
しかしフィーナは巫女と呼ばれる存在で、人間の希望の象徴。生活に関わるあらゆる面が神官達に管理されているといっていい。昔ダレスが、勝手に結婚相手を決められると言っていたことを思い出したフィーナは、それについてフィル王子に話し彼からの反応を待つ。
「彼等にとって、その相手も自分達に都合がいい人物を選び出すだろう。外部の者は、有り得ない」
「そう、ダレスも言っていました」
「神殿は、巫女の血によって力を持ち過ぎてしまったのかもしれない。本来の役割から、かけ離れている」
別に神官だから質素倹約をしなければいけないということはないが、聊か度が過ぎる。血によって齎される金に魅了され、欲望のままに生き続けている。結果、女神に仕える立場だというのに他の種族の者達を見下し、中には同じ人間同士であっても格差で差別している。
本当であったら、そのような人物に手を差し伸べなければいけないのではないか。それでも彼等は手を差し伸べることはせず、金を支払ってくれる人物に尻尾を振り媚を売り続ける。だからこそフィル王子は自身が健康を害した時でも、血の癒しの力を使おうとはしなかった。
「ダレスの方が、信頼できる」
「ですから、手助けを――」
「それもあるが、先程言ったように償いの意味の方が強い。さて、ダレスの為に方法を探そう」
「見付かるといいです」
フィーナの言葉に頷き返すと、フィル王子は背表紙に書かれた文字を黙読しながら本を探していく。時折気になった本があれば手に取り、本に書かれている文章を読み内容を確かめる。それを何度か繰り返すが、二人はなかなか目当ての本を発見することができないでいた。
だが、全ての本を確かめたわけではない。この部屋に集められている多くの本の中から一冊だけでも見付かればいい、その思いの中で二人は本を探す。それでも心の片隅には「もし、方法がなければ……」という最悪な展開を予想してしまい、何とも表現し難い緊張に襲われる。