新緑の癒し手

 その時、扉が控え目に叩く音が響く。その音にフィル王子は返事を返すと、扉を叩いた者に入室を許可する。扉を叩いた人物は城で働く侍女の一人で、国王陛下が呼んでいるということを伝える。侍女の話にフィル王子は一瞬表情を歪めるも、仕方なく命令を受け入れた。

「……わかった」

 フィル王子から返事に侍女は恭しく頭を垂れると、静かに扉を閉めその場から立ち去る。それと同時にフィル王子は盛大な溜息を付くと、これから先は一人で探して欲しいとフィーナに詫びる。それに対しフィーナは頭を振ると、自分がやりたいと選択したことなので大丈夫と告げる。

「話が終わったら、また――」

「はい」

 元気のいいフィーナの返事にフィル王子は微笑を浮かべ軽く頷き返すと、彼は書庫を後にする。流石、王子様というべきか、彼の立ち去る時に見せた態度にフィーナの心臓が一度激しく鼓動する。逞しくて立派で王者に相応しいフィル王子に、感謝の言葉が尽きなかった。


◇◆◇◆◇◆


「ねえ、まだいるの」

「そう、本当に飽きないわね」

「やっぱり、それしか脳がないのよ」

「でも、相手にしている子が可哀想」

「救出に行く」

「ママ、いいかしら」

 口々に語り合うのは、セインの凄まじい性欲に呆れている娼婦達。確かに相手は定期的に通ってくれる「常連客」なのだが、その度にきちんと支払いをしてくれるわけではないので「常連客」というより「厄介な客」と言った方が正しく、誰もがセインを馬鹿にしていた。

 現在、セインは一人の娼婦を抱いているが、彼女の体力を考えれば救出しなければいけない。精根尽き果て、最終的には魂まで抜き取られるのではないかというくらい、セインは娼婦を抱く。何時間も抱いても飽きないというのだから、やはり見習い神官の職業は適性ではない。

 娼館の女主人サニアも危険と判断したのだろう、店の子達に救出を命じる。そもそもサニアや彼女達は、セインを客とは思っていない。来れば必ず何人もの娼婦を潰し、店にとっては大損害を与える疫病神。だから相手が何と言おうが、適切とも取れる時間帯で退場を願う。
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