新緑の癒し手

 彼女達が向かうのは、セインが有り余る欲望を撒き散らしている部屋。相変わらず乱暴に女性を扱っているのだろう、絹を引き裂いたかのような声音が響く。ダレス同様に、彼女達は扉を乱暴に開ける。流石セインを普通の客と思っていないだけあって、行動に遠慮がない。

 集中していたことにより、自身の後方に複数の娼婦が立ち尽くしていることに気付いていないセインは、溜まっていたストレスが発散し満足したのだろう、恍惚な表情を浮かべ満足している。しかしこれで満足しないのがセインの悪い部分で、再び事をはじめようとする。

「待った」

「な、何だ」

「終わりよ」

「何故、お前達が――」

 いまいち反応が悪いセインに、娼婦達の辛辣な言葉が続く。一方セインに抱かれていた者は仲間達が救いに来てくれたことが余程嬉しかったのだろう、安堵の表情を浮かべている。すると緊張の糸が切れたのか、それとも体力の限界を迎えたのかその場で気絶してしまう。

「ほら、どきなさい」

「命令するな」

「気絶しているでしょ」

「気絶していても構わない」

 相手の身体を考えない身勝手な言い分に、娼婦全員が切れてしまう。意識が無い者を好き勝手に抱く行為は、蹂躙そのものといっていい。そのようなこともわかっていないセインの言動に辛辣な言葉を言い放ち、本当に女神に仕える見習い神官なのか問い質す者までいた。

 それ以前にセインは、抱いていた者に対し酷い仕打ちをしている。数多くの客が娼館を訪れているが、これほどのことを行なった者は誰一人としていない。客も娼婦にそれなりの敬意を示し、多少は強引な面を見せても彼女達を大事に扱い、汚い言葉で罵ったりはしない。

 だから、これ以上は許さないという雰囲気を湛え、セインの側で厳しい口調で話していく。一方セインは自分より身分が下で、娼婦という卑しい職業の者達にあれこれと言われることに腹立たしさを覚える。その気持ちが言葉として前面に表れ、ついに逆切れしてしまう。

 しかしセインの言い分は、明らかに矛盾だらけだった。身分が低いと見下している相手に熱を上げ、このように毎日のように抱いている。それに本当に卑しいと罵るのなら触れるだけでも嫌悪感を抱くのだろうが、彼は「娼婦」の名前を出し、父親の逆鱗に触れる始末。
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