新緑の癒し手

「あら、情けない」

「ああ、この子が可哀想」

 セインを邪魔とばかりに押し倒すと、寝台に横たわっている仲間を救い出す。邪魔者扱いされたセインは見事に寝台から落ち床で無様な姿を晒すが、誰一人として救いの手を差し伸べない。

「き、貴様等」

「何かしら」

「父上に頼み、潰してやる」

「できるの?」

「馬鹿にするな」

 一族の名を絶対的に思っているからこその口調だが、毎日のように娼婦を抱いている者が言うといまいち信用できない。それに本当に潰しに掛かれるかどうか怪しく、またいい年齢をして父親頼みというのも情けない。それらが総合してか、セインの愚かさをいっそう引き立てる。

「やれるものならやってみなさい」

「本気だぞ」

「そういえば、こっちが屈服すると思ったの? 馬鹿じゃないの。だから、貴方は馬鹿なのよ」

「こっちはね、あんたが味わったことのない苦労をしているの。ぬるま湯に浸かって、平々凡々と過ごしていると違うの」

 家柄を盾に取れば彼女達が何も言ってこないと考えていたセインにとって、これは計算外の出来事。発した言葉は彼女達の逆鱗に触れ、ますます立場を悪くしていく。それでも微かなプライドがそうさせているのか、彼女達に謝ろうとしないのがセインの意地というもの。

 そもそもセインが持つプライドは、決して褒められたものではない。特に彼女達の感覚では「プライドといっても、彼が誇れるのは名家の血筋」というもので、面と向かって一人の娼婦が言い放ったようにセインという人物が偉いわけではない。結果、全員が一斉に鼻で笑う。

 こうなると完全にセインの敗北が決定し、何を言っても今の彼女達に勝つことはできない。やっと自身の敗北にやっと気付いたのか、セインが沈黙する。相手が何も言ってこないことに数名の娼婦が仲間をシーツで包むと、セインの摩の手が届かない場所へと連れて行く。

 欲望を満足させる為に抱き続けていた娼婦が、連れて行かれてしまった。そのことに不満たっぷりの様子であったが、娼婦全員が発するオーラと状況が状況なだけに抗議し辛かった。そして仲間を救い出すことができれば、このような汚い場所で馬鹿を相手にする必要はない。
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