新緑の癒し手
ただ冷たい視線を向け、息子が語り終えるのを待つ。しかし積年の恨みとばかりに語るセインは時間の経過と共に勢いを増し、途中で身振り手振りを付け加える始末。まさには苦心の演技と取れる馬鹿馬鹿しい行動の数々に、ナーバルは途中で聞くのが億劫になってしまう。
「だから、何だ」
「潰して欲しい」
「何故だ?」
「気に入らないから」
「そう言うが、今まで散々利用してきたではないか。私が、あれほど通うなと言っていたのに」
「あれはあれで、それはそれで……だけど、今回は本当に頭にきたんだ。だって、見下したんだよ」
「お前が怒らすようなことをしたんだろう。それに言い返せないとは、話術にも長けていなかったのか」
「あの者達は、一癖も……」
「また、言い訳か」
いつもと違い、嫌悪感を抱いているはずの娼婦に味方する父親に、セインはやっと部屋中に漂う不思議な気配を感じ取ったのだろう、首を傾げ恐る恐る何かあったのか尋ねてみる。すると悠長に構える息子にとうとう限界がきてしまったのだろう、ナーバルの叱責が空気を震わした。
父親の態度の変化と叱責に、セインは両手で頭を抑え情けない声音を発する。その年齢に似合わない女の子のような弱弱しい態度が更に神経を刺激したのか、ナーバルは顔をこれでもかとばかりに歪め、息子を睨み付けるようにして見下す。そして、息子との絶縁を言い放った。
「ち、父上……何と……」
「聞いていなかったのか? 絶縁だ」
「何故です」
「お前に、利用価値がなくなったからだ」
実の父親とは思えない冷酷な言葉の数々に、セインは完全に打ちのめされてしまう。いくら日頃から辛辣な言葉を言われようが、その裏には親の深い愛情が存在すると確信していた。現に溜まっていたツケを全額支払ってくれ、堅苦しい品行方正の約束を破棄してくれた。
しかし、今は違う。ハッキリと聞き取れる口調で「絶縁」と言い、親子の縁を切る。それだけではなく、今後一族の名前を使用することも許さず、どのような形で死のうが関係ないという。親子の縁を切られただけではなく、一族から見捨てられたことにセインは絶叫する。