新緑の癒し手

 好き勝手に振る舞い、身分が低い者を見下し嘲笑えたのも〈ファーデン〉という名門一族の名前があったからこそ。その名前を失った今、セインに残されている物は何もない。それに一族の名前があったからこそ見習い神官になれたのであって、これさえも奪われてしまう。

「利用価値とは、何ですか」

「お前の得意分野だ」

「得意って……」

「女を抱くことだ」

「父上がお望みでしたら、何人でも抱けます。いえ、抱いてみせます。今すぐにと申されるのでしたら……」

「それ以降は、どうなんだ?」

「それとは……」

 父親の言っている意味がわからなかったのだろう、セインは間の抜けた声音を出す。理解が悪い馬鹿を嘆くかのように盛大な溜息を付くと、ナーバルは「それ以降」の意味を話す。つまり、相手を妊娠させられるかどうか。それに対しセインは、首を傾げるだけで言葉が続かない。

「あれだけ抱いているのなら、一人くらい妊娠させてもおかしくないだろう。相手がいくらプロといっても、あれだけお前に抱かれているのなら可能性がないわけでもない。しかし――」

「そ、それは……」

「自覚はなかったのか」

 やっと父親が言いたいことを理解したのだろう、セインの顔から血の気が引いていく。確かに、娼婦から妊娠したという話は聞かない。裏でこっそりと堕胎でもしていたのだろうと自己完結し、抱き続けた。だが、相手は一癖の二癖もあるサニアが雇っている子達である。

 セインによって妊娠させられたとわかったら、ナーバルに何か言ってくるだろう。下手をすれば、ツケの全額支払いを要求してくるかもしれない。それさえないというのだから、自分の身体は――突き付けられた現実は想像以上に重く、セインの身体は小刻みに震えだしていた。

 自分は、子供が作れない。

 いや、その能力がない。

 まさかの欠陥品。

 このように父親に指摘され、やっと気付く己の隠された体質。散々、娼婦を抱いてきたと言うのに全く己の体質に気付いていなかったことに、ナーバルは落胆に似た溜息を吐く。しかしそれでも諦めていないのがセインの特徴で、何とか絶縁の撤回を願い必死に食い付く。
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