新緑の癒し手
「み、巫女は誰と結婚を――」
「お前には関係ないだろう」
「……いるのですか?」
「まだ、相手は決めていない。いずれ、相応しい相手を捜す。だから、お前は目障りだ。早く立ち去れ」
それだけを言い残すと、ナーバルは血の繋がった息子を見捨て立ち去る。次の瞬間、セインはその場に崩れ落ち、突き付けられた現実に打ちひしがれる。こうなった今、泣こうが喚こうがどうしようもならない。ただ、これからどのようにして生きていくのか、考えないといけない。
ふと、セインの心にどす黒いモノが沸々と湧き出してくる。巫女の結婚相手はまだ決定していないので、それなら先に巫女と既成事実を作ってしまえばいい。それに能力が欠落していると言っていたが、娼婦が上手く回避してくれたので妊娠に至らなかったのかもしれない。
能力は、欠落していない。そう自分の都合よく記憶を操作すると、セインは身体を震わせ悪魔のような形相を浮かべながら笑い出す。名門一族の名前を使えなくなった今、新しい拠り所を探さないといけない。彼にとってそれが巫女の夫の地位で、喉から手が出るほど欲しい。
相手が拒絶しようが、関係ない。どのような方法を用いても、巫女が自分を夫として認めたことを周囲に見せ付けないといけない。セインは新たなる野望の為に身を起こすと、ふら付く身体を押し部屋の外へ向かう。そして、自分の素晴らしい将来の道具となる存在を待つことにした。