新緑の癒し手
第六章 破壊の序曲
フィル王子の計らいで城の書庫でダレスの血の呪縛からの解放方法を探していたが、全くといっていいほど手掛かりが見付からない。それ以前にそのような記録さえ存在しておらず、それどころか異なる種族同士の婚姻があったのかどうか、それさえ記録として残っていない。
ダレスの両親が特殊?
そのように片付けられなくもないが、人間が文字を発明し文明を築いてから長い年月が経過している。そして人間の進化に比例し他の種族も進化し独自の文明文化を築いているので、同じ大地に暮らしている同士、交流がないわけがない。またその過程で愛情が成立し、婚姻に至った可能性も考えられる。
しかし人間が書き記した記録の中に、そのような記述は存在していない。本当に無かったのか、それとも誰かが意図的に抹消したのか――日頃の彼等の行為を総合すれば後者と、フィーナは考える。特に自意識過剰で自己顕示欲の塊の神官なら、それを平気で行うに違いない。
「無力だ」
「そのようなことはありません。こうやって、書庫に納められている本を拝読させて頂きました」
「これだけあるのだから、一冊くらいは手掛かりになることが書かれているのではないかと、期待したが……」
いい方法が見付からなかったことに、一番落胆しているのがフィル王子。人間の行いを反省し人一倍強い罪の意識を持っているからこそ、ダレスを呪縛から解放させられなかったことに心を痛める。心優しいフィル王子の気遣いにフィーナは頭を振ると、これで十分と伝えた。
「いいのか?」
「多分ですが、人間が書き記した記録にはそのような記述はないと思います。都合の悪い部分は削除しますし」
その一例が、ダレスの母親の件。フィーナの話で神官達が行った非道な仕打ちと有り得ない裏工作にフィル王子は苛立ちを覚え、清々しい表情で聖職者と名乗り説法しているのだから何かが間違っている。同時に、ダレスの母親の件を考えれば彼女の言葉は強ち嘘ではない。
「それに、ヘルバさんがいます」
「ああ、例の有翼人だね」
人間の世界に記録として残されていなかったとしても、他の種族の間に記録が残されているかもしれない。此方の世界で手掛かりが見付からない今、他の種族の記録に頼らざるえない。だが、不安がないわけでもなく、それに別の悪い記録が出てくるのではないかと其方の面も恐れる。