新緑の癒し手
人間の行い。
人間の正しい歴史。
罪と罰。
そして、彼等の愚考。
それら全てが目に余る内容であったら、人間とは一体何の意味を持ってこの大地に生きているのかわからなくなってしまう。フィーナはフィル王子に血の呪縛の解決方法を知りたい反面、他の種族が書き記している悪い記録が明かされることが恐ろしいと本音を漏らす。
「その気持ちはわかる。しかし、私はそれでいいと思う。明らかにされ、それとどのように向き合うか……人間は今、その瀬戸際に立たされている。それに、このままでは我々は……」
これから先は言い難いのか、途中で言葉を止めてしまう。しかしフィル王子が考えている内容というのは、遠い未来に有り得る出来事のひとつ。それは他の種族と絶縁状態が長く続けば、いずれは彼等の激昂を買い人間自体がこの大地から文明文化の痕跡共々消滅してしまうという。
一見、大袈裟に思えるこの内容だが、フィーナは心当たりがあった。ヘルバは、有翼人自体が人間を毛嫌いしていると言っていた。竜族は複数の要因が絡んでいるので、有翼人以上に嫌っているだろう。そしてもうひとつの種族は、竜族と有翼人の同行次第で敵に変化する。
まさに、四面楚歌。だからフィル王子は、人間にとって悪い記録が残されているというのなら、大衆の目に触れさせ人間が己や先祖が何をしてきたのか知る必要があると話す。だが、本当に彼等は気付くのだろうか。現在人間は甘い状況にどっぷりと浸り、他者の意見に耳を傾けようとはしない。
そのような状態で他の種族が書き記された記録が公になったら、どのような反応を示すか。人間以外が書いた歴史を鼻で笑い、自分達に都合がいいように脚色していると嘲笑う者もいるかもしれない。結果、他の情報を受け入れようとせず、自分達が正しいと言い張る。
「いや、そうなった方がいいのか。人間は、あまりにも汚れすぎた。巫女の血という神の力を手に入れた時、こうなってしまったことを予期できていたのかもしれない。神の力を使う者は、それに相応しくないといけない。聖人君子とまではいかないが、他者を思い遣り施しの精神を持つ者。だが、最初は違っていただろう。本当に、いつからこうなってしまったのか……」
自分達が行っている行為が愚かで間違っていると気付いた時に引き返すことができていたら、他の者達と共存している未来が待っていたかもしれない。引き返すことも勇気であり何ら恥じることではないが、人間は引き返すどころか踏み締めてきた道を省みることはしなかった。