新緑の癒し手
自分は正しい。
何が間違っているのか。
彼等の主張は続き、それが奢り昂ぶりだということに気付いていない。しかし、誰もがそのような気持ちを最初から持っていたわけではない。慈しみ助け合い、仲間同士で知恵を絞って文明文化を築き上げていった。それが今の生活スタイルを生み出し、大いに発展する。
汚れなき美しい者達。
厳しい環境の中に生きる者達に、神の力を――
女神イリージアがどのようにして、人間に神の力である癒しの血の力を与えたのか、明確な記録に残されていないが、その当時の人々は女神に感謝し別け隔てなく血の力を与えていただろう。それにより人間の社会は更に発展を遂げ、病気や怪我の恐怖から解放された。
だが、光が眩しければ眩しいほど、足下に存在する影は濃さを増すもの。眩しいほどの大いなる力は人間の奥底に眠っていた感情を刺激し、一部の人間の心を漆黒に染め上げていく。心に闇を住まわせた人間は女神より与えられた血を使い、自身の私服を肥やすようになった。
一人。
二人。
それは連鎖反応のように広がっていき、いつしか血の使用の仕方が変化していく。血は神の力の象徴から金を生み出す道具と化し、それに比例して神官の心が腐りだす。腐りきった者の言葉は正常な者の思考を麻痺させ、人間は同じ者同士で差別し合い階級を作り出す。
それらの考え方は他の種族へ飛び火し、癒しの血を与えられなかったのは自分達より劣っているからだと判断する。その一連の行動が決定的な種族間の決裂を生み、人間は孤立無援と化す。それさえも気付いていない人間は、今も他の種族に対し独自の理論を述べている。
その中から生まれた異質な存在が、フィル王子といえよう。人間が抱いている感情を「悪」と判断し、他の種族と手を取り合って暮らしていくこそが正しいと考えている。また、血の力を過信しすぎることに警鐘を鳴らし、人間でありながら血そのものの消滅を願っている。
異端。
いや、進化か。
ただ、唯一言えることはフィル王子の誕生によって、人間の世界が変化する。勿論それだけではなく、切っ掛けは別の場所にも存在していた。神官の一人であるナーバル。彼はフィル王子と逆の考えを持ち、それにより大地を揺るがすであろう事件に発展するのだった。