新緑の癒し手

 誰もが、顔を見合す。

 そして、同じ言葉を囁く。

 あの時と一緒――と。

 しかし彼等は、フィーナを無下に村から追い出そうとはしない。レグナスが話した「何故、人間が」という部分に対しての回答を耳にしたからだ。彼等の心を支配していた動揺はフィーナへの同情に変化し、そのような背景があるのなら仕方がないと彼女の滞在を許す。

 情に熱い村の者にレグナスは感謝しきれないが、彼が予想したように「同情」が前面に立っているうちはいいが、それ以上は流石に庇いきれない。族長である以上一族の感情を優先し、一族をまとめ上げないといけない。また時として、情に流されてはいけないことを知っている。

 話の終了の後、レグナスは忙しい時に呼んだことを詫びつつ仕事に戻るように促す。族長の命令に村の者はそれぞれの速度で仕事場所に散って行くが、先程の話が余程強烈だったのだろう所々で噂話が交わされ、数人の者はフィーナが滞在している族長の家を一瞥する。

 息子との役割を果したレグナスは盛大な溜息を付いた後、自宅へと戻って行く。そして椅子に腰掛けながらハーブティーを味わっている息子に、フィーナは起床したかどうか尋ねる。父親の尋ねにダレスは首を傾げながら「まだ、寝ているのでは」と言い、天井に視線を向けた。

「起こしてくる」

「それがいい」

「彼女の飯は、俺が作る」

「いいのか?」

「そこまで、父さんの世話になるわけにはいかないし。父さんは父さんで、仕事があるだろう?」

「特に、込み入っている仕事はないが……今、急がないといけないのはお前達に用意する空き家の準備か。あの家は何年も使用していないから、中はきっと埃塗れで汚れているだろう」

「……御免」

「息子の為に、好きにやっていることだ。さあ、そのようなことを言っている暇があるのなら、早く行ってやるといい。何か気の利いた言葉のひとつも掛けてやれば、気分が落ち着く」

 父親の心遣いにダレスは頷くと、二階へ上がりフィーナが休んでいる部屋に立ち入る。するとすでに起きていたのか、ダレスが貸した外套を頭から被り寝台の上で座り込んでいるフィーナの姿が視界に写る。ダレスは一定の歩調で彼女の側へ行くと、眠れたかどうか尋ねた。
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