新緑の癒し手
彼の尋ねにフィーナは頭を振ると、ゆっくり顔を上げダレスに視線を合わす。真っ先に目に付いたのは、目元の隈。どうやら熟睡以前に朝方まで眠ることができなかったのだろう、生気が感じられない。痛々しいフィーナの姿にダレスは居た堪れない表情を浮かべると、彼女の手を取る。
突然、手を握られたことにフィーナの身体が過敏に反応を見せるが、それ以上の反応はない。ダレスに手を握られていることに強い安堵感を抱くのだろう、ぎこちないながらも頑張って口許を緩める。しかしそれは長く続くことはなく、すぐに無表情へ変わってしまう。
「飯は?」
「……少し」
「消化がいい物を作る」
「ダレスが?」
「父さんがいい?」
「……ダレスが……いい」
「美味しい料理を作るよ」
「……うん」
料理ができるまで、部屋で待っていて欲しい――と、ダレスは口に出そうとしたが、フィーナの心情を優先すれば部屋に待たせるわけにはいかない。予想外の何かを仕出かす心配はないだろうが、今の状態を考えると一階に連れて行くのが適切な判断だとダレスは思う。
一緒に一階に行かないか尋ねると、フィーナは何度も首を縦に振る。彼女の反応に自分の判断が正しかったことを知ったダレスは、彼女の身体を抱き上げようとしたが、自分の脚で歩けるとフィーナは断ってくる。だが、今は素足なので怪我をすること心配してしまう。
「だけど……」
「恥ずかしい?」
「う、うん」
「別に、恥ずかしいことはないよ。それに、いるのは父さんだけだし。ああ、それと空き家を用意してくれた」
「一人で?」
「いや、俺も一緒だ」
「それなら……」
何か言いたいことがあるのか、フィーナはモジモジとしている。それでも恥ずかしさが前面に出ている為か、彼女がモジモジとしている理由について話すことはしなかった。やっと口に出したのは空き家の掃除を自分も行なうことと、一緒に暮らした時の料理は任せて欲しいというものだった。