新緑の癒し手
瞬時にダレスは、フィーナが漂わせている違和感に気付く。しかしダレスは彼女の気持ちを優先し、気付かないフリをする。ただ「美味しい料理を期待している」と言葉を返し、握り締めていた手を彼女の目の前に差し出す。そして、一緒に一階へ行こうと促すのだった。
一晩眠れなかったが、食事が喉を通らないというわけではなかった。フィーナの為に用意したのは、細かく切った野菜をたっぷり使用したオムレツ。調味料を殆んど使用していなかったが、野菜の甘味が強く美味しい。特に卵が半熟のふわふわで、ダレスの気遣いが窺える。
美味しく食べているフィーナの姿に、ダレスだけではなくレグナスも安堵感を覚える。お代わりをしたわけではないが、このように料理を美味しく食べることができれば、肉体と精神の回復に繋がる。一日も早く回復を――それが、ダレスとレグナスの願いでもあった。
食事を終えたフィーナは用意してくれた靴を履き、これからダレスと一緒に暮らす空き家へ向かった。村の中を歩いていると、フィーナは複数の視線が自分にむけられていることを知る。村の者は、人間――ましてや巫女に複雑な心境を抱いているのだろう、噂話は続く。
「気になる?」
「……うん」
「仕方ないよ」
「この髪色、目立つものね」
「それは、俺も同じだよ」
フィーナを安心させようと言った言葉であったが、思った以上の効果は出ず、それどころかフィーナを塞ぎ込ませてしまう。確かに互いに同じ髪色をしているが、ダレスはレグナスの息子。置かれている立場が違い、周囲はダレスに対しては好意的な振る舞いをしてくる。
この場合、塞ぎ込んでいるフィーナに優しい言葉を掛けるべきだが、ダレスは敢えて厳しい言葉を掛ける。直面する現実を受け入れ、それに対しての解決方法を見出さないといけない。異なる種族に飛び込んだのだから、その文明文化に溶け込んで一員とならないといけない。
「それは……」
一体、何をすればいいか。フィーナは困った表情を浮かべながら、ダレスにヒントを求める。ダレスが彼女に与えたヒントというのは竜の村は自給自足で生活し、誰もが仕事を持っているというもの。彼のヒントにフィーナは、自分も何か仕事をすればいいのかと尋ねた。