新緑の癒し手
「そう」
「何か、できるかしら」
「得意の仕事は?」
「機織なら、村でやっていたわ」
「機織か……それが、いいんじゃないか。この村でも機織はやっているから、手伝うといい」
「できるかしら」
「村でやっていたのなら、何とかなるんじゃないか。使用している道具は、一緒だろうから」
ダレスが言うように道具が一緒なら機織は可能だが、だからといって久し振りの機織。上手く織れるか自信はないが、竜の村の文明文化に溶け込み彼等の信頼を勝ち取りたいというのなら、頑張らないといけない。それに何もしないままでは、それはそれで結構居辛い。
フィーナから行える仕事を聞き出したダレスは、機織が可能ということを後で父親に伝えておくと話す。また何の伝もなく直接頼みに行くのは憚られるので、レグナスが間に入って取り次げば問題なく仕事にありつけるかもしれない。しかし、その後は彼女の努力次第。
彼の言葉に、フィーナは頷く。彼女の返事にダレスは、物分りがいい人物で安心する。もし我儘を前面に出す人物であったら、彼の意見を受け入れることはしなかっただろう。負った傷の深さを第一に考え優しくして欲しいと言い出し、手に負えなかったかもしれない。
確かに傷の面を優先すれば、何もさせずに村での療養を求める。だが、彼女が滞在するのは竜の村で、人間が生活しているわけではない。真の意味で村の者と仲良くやっていきたいというのなら、積極的に自分から動き彼等に認められるようにしないといけないだろう。
予想以上に強いフィーナを一瞥すると、ダレスは目の前の建物を指差し、これが例の空き家だと説明する。父親が用意してくれた空き家は、こじんまりとした二階建ての建物。長い年月使用していなかった影響だろう、窓から中を覗き見ると至る箇所が埃で汚れていた。
「どうかな? 汚いけど」
「凄く立派」
「良かった」
フィーナが喜んでくれれば、それでいい。ダレスは満足そうにそう言葉を返すと、父親から借りている鍵を使い扉を開く。その瞬間、室内に溜まっていたどんよりとした独特の空気が漏れ出し、ダレスとフィーナを咳き込ます。またカビ臭く、互いの体調を心配してしまう。