新緑の癒し手
「す、凄いな」
「換気をしないと……」
フィーナは澱んでいる空気とカビ臭い臭いを外へ出そうと、一階の窓という窓を全て開く。それにより多少呼吸は楽になるが、だからといってカビの臭いが治まったわけではない。カビの部分を水拭きし自然乾燥を行なわないと、この家で住めたものではないとダレスは判断する。
「想像以上だ」
「でも、掃除のし甲斐が……」
「掃除は好き?」
「神殿にいた頃は、何もできなかったから。だから、自分で掃除ができるのは嬉しいし楽しみ」
「心強い」
彼女にとって自分で何かができなかった神殿の生活より、自分で何かを行える村での生活の方がいいのだろう、率先して掃除を行なう。これによりフィーナの傷を癒すには、何か仕事を行なって貰うのがいいと判明し、彼女に機織の仕事を与えるのは間違いないと確信する。
その後、二人は仕事を分担しながら家の掃除を行っていく。壁のカビ取りに、至る箇所に作られている蜘蛛の巣の撤去。また埃を拭いて、片付けられていたテーブルや椅子を用意する。そして生活に欠かせない竈がきちんと使用できるか確かめ、結果掃除は夕方まで掛かってしまった。
「お疲れ」
「お疲れ様」
「汗を流しに、温泉に行くといい」
「でも、まだ……」
「一人がいいか」
「……できれば」
「それだと、随分遅い時間になってしまう。それでもいいのか? 疲れているのなら、早い方が……」
「大丈夫。それに、ダレスにご飯を作ると約束しているもの。朝は作って貰ったけど、夕食からは……」
今日の夕食は自分が作るので、フィーナが作るのは明日からでいいと言いかけるが、強い意思を秘めている双眸で見詰められると断り辛い。ダレスはフィーナに負けたという雰囲気を見せると、夕食を作るのに必要な食材を調達してくるので、何を用意すればいいか聞く。