新緑の癒し手
「何が、食べたい?」
「フィーナが作るなら、何でも」
真顔でそのようなことを言われると、微かに頬を赤らめてしまう。言い方を変えれば「フィーナが作る料理に文句は言わない」ということだろう、フィーナの動揺は続く。ダレスと視線が合わせられなくなったのか急に俯くと、小声で穀物と酪農品と野菜が欲しいと頼む。
「今日は、サンドイッチを作ろうと……」
「楽しみだ」
「それと、掃除用具は片付けておくわ」
「わかった。それと、一度父さんのところに寄る。フィーナが得意としている、仕事を伝えないと」
そう言い残すと、食材の調達に向かうダレス。フィーナは彼との約束通り掃除に使用していた道具を片付け、少し落ち着かない雰囲気でダレスが帰って来るのを待つ。その後、パンとパンの間から具がはみ出している不恰好なサンドイッチを作るが、味付けは最高でダレスを喜ばす。
焼き菓子以外でこのように喜んでくれたことが嬉しかったのだろう、フィーナの表情が緩む。そしてもっとダレスに喜んで貰いたいのか、次に彼女が用意したのは紅茶。しかし熱々のお湯を使用して淹れてしまったのだろう、一口口に含んだ瞬間、ダレスは悶絶してしまう。
「熱かった?」
「結構」
「ご、御免なさい」
「ちょっとお湯の温度が高い」
「よくわからずに淹れて……もっと美味しい紅茶を淹れたいから、今度淹れ方を教えて貰えると……」
「ああ、構わない」
「美味しい紅茶を淹れられるようになって、喜んで貰えるように頑張るわ。あと、料理も……」
ダレスと一緒にいたいから、世話になっている彼に尽くしたい。今、自分ができる精一杯の恩返しと考えているのか、気張っている一面が見受けられる。それでもフィーナがやりたいと言っているのだから、ダレスが彼女の行動を制することはせず、心の中で応援する。
しかし独自の紅茶の淹れ方を確立したダレスから学ぶとなると、相当の努力が必要となる。ダレス自身フィーナに「厳しくする」と言いちょっと威してみると、彼女からの返事が返ってこない。真剣な表情に怖気ずいたのか――だが、彼女の決意は固かったらしく、力強く頷いた。