新緑の癒し手

 フィーナの決意を聞いたダレスは了承すると、明日から教えると伝える。ダレスが教えてくれたことに安堵すると、今度は別の何かを頼もうとしているのか、オドオドと落ち着きがない。どのような理由で落ち着きがないのか尋ねると、衝撃的な言葉をフィーナが言い放つ。

 一緒に寝て欲しい。

 ダレスにとって彼女の発言は、思考を停止させるには十分だった。脳裏に何度も響き渡るのは「一緒に寝て」という言葉。すぐに受け入れることができなかったのだろう、ダレスは再度聞き返してしまう。それだけフィーナの発言は、ダレスにとっては信じ難いものだった。

「駄目?」

「いやー、俺は……」

「わかっているわ。わかっているけど、怖くて……夢を見て……思い出したくないけど、思い出して……」

「だから、朝……」

「うん。夢の中に、あの人が出てきて……また……怖かった。怖かったから、寝られなくて。御免なさい。ダレスやダレスのお父さんが、優しくしてくれているのに……私ったら……」

「仕方ないよ」

 あのようなおぞましい出来事を体験した後、熟睡できるほど彼女の神経が図太いわけがない。フィーナの心情を理解せずに、昨晩一人で寝かしてしまったことに心苦しさを覚え、贖罪の気持ちがいっぱいになってしまう。だからといって、一緒に寝るのは戸惑いの方が大きい。

 躊躇い続けているダレスにフィーナは、彼の身体の特徴を思い出す。感情の起伏で、身体が変貌してしまうダレス。ひとつの寝台で寝ることに躊躇いを持つ理由もわからなくもなく、これが我儘だということもわかるが、それでもフィーナは一緒に寝て欲しいと頼んだ。

「くっつく?」

「……多分」

「背中を向けて」

「それでもいいわ」

「それなら……」

「……うん」

 互いの間に漂うのが、何とも表現しがたい重苦しい空気。しかしその空気を取り去ったのは、ダレスの言葉。勿論、フィーナにくっつかれて寝るのは気恥ずかしいが、この場で彼女を突き放すほど非情ではない。だから彼女の頼みを受け入れ、一緒に寝ることを選択した。
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