新緑の癒し手
フィーナが尋ねた、竜の愛情表現とは「好意を抱いている相手に噛み付く」というものだった。人間にとって特殊で信じ難い表現方法だが、愛情の示し方は種族によって異なるもの。これが正しくこれが間違っていると決め付けるのはおかしいが、いかんせんこれはレベルが高い。
ダレスから正しいと聞いた瞬間、フィーナは反射的に俯いてしまう。勿論、人間の間にも愛情表現は存在するが、それは口付けや抱き締めや――至って普通のやり方といっていい。だから、竜の愛情表現が相手に噛み付くという行為に、フィーナはパニック寸前だった。
「フィーナ?」
「えっ!?」
「顔が……」
「だ、大丈夫」
「そうか」
一応フィーナの言葉に納得した素振りを見せるも、ダレスは何故彼女が動揺しているのか瞬時に悟る。理由は、竜の愛情表現の方法を聞き、それが肯定されたからだろう。フィーナは純粋で、殆んど――というか、全く恋愛経験を持っていないのだからこの反応は仕方ない。
「で、ご飯……」
「頼む」
「う、うん」
これ以上、ダレスの前にいるのが気分的に限界になってしまったのか、それだけを聞くとフィーナは俯いたまま、そそくさと立ち去ってしまう。それについてダレスは特に咎めることはせず、それどころかフィーナにとんでもないことを知られてしまったと焦りだした。
できるものならこれは知らない方が良かったが、知られてしまったのだから後悔しても遅い。ダレスが珍しく盛大な溜息を付いていると、後方からレグナスの声音が響く。フィーナと一体、何を話していたのか。その尋ねに再び溜息を付くと、先程の出来事を話していく。
「……そうか」
「参ったよ」
「で、何と?」
「正直に言った」
息子の話を聞きレグナスは同情心を抱くが、それ以上にフィーナが村の者と思った以上に仲良くやっていることを知る。仲良くやっていなければ、このような竜の特徴を話したりはしないだろう。この調子だと、もっと様々なことを教えているのではないかと予想する。