新緑の癒し手

 村の者は、何をしたいのか――

 フィーナを受け入れてくれたことは有難いが、いまいち彼等の行動が読めない。何を望んで知識を与えているのか、わからなかった。ただ、これがいい方向に働けばいいとレグナスは考えるが、竜の愛情表現の仕方については、ダレスにとっては気の重い内容となった。

「……父さん」

「何だ」

「種蒔きが終わっていないけど、寝る」

「それがいい」

 まだ畑仕事が終わっていないので息子に手伝って欲しいが、寝不足で尚且つ先程の話でダメージを受けた。この状態で働かせても足手纏いは確実なので、レグナスは休むことを勧める。父親の許しにダレスは感謝すると、ふら付く足取りでフィーナと暮らす家に戻っていった。


◇◆◇◆◇◆


 睡眠を貪るダレスを目覚めさせたのは、食欲をそそる美味しそうな料理の匂いだった。フィーナが用意してくれたのは手軽に作れる野菜スープと、胡桃の丸いパンと果物の飲み物。先程の出来事が関係しているのか、食事の最中に交わされる会話は無く、長い沈黙が続く。

 部屋の中に響くのは、食器がぶつかる音。特にフィーナの動揺が強いのか、食べ方がたどたどしい。時折、勇気を出してダレスに視線を合わせるが、やはり恥ずかしいのだろう瞬時に視線を逸らし、黙々と食事を続ける。するとダレスは気まずい空気に耐えられなくなったのか、口を開く。

「は、はい!」

「そんなに、驚かなくても……」

「ご、御免なさい」

「別に、謝らなくていいよ。ところで、機織の仕事は順調? 順調だったら、いいけど……」

「うん。皆、優しい」

「それを聞いて、安心した」

「昔、やっていたのを選んでくれたから」

 ダレスとレグナスの計らいで機織の仕事を提供してくれたから、何とか村に順応することができた。これが別の仕事だったら、これほど上手く順応することはできなかった。彼女の話で精神面が安定してきたものと判断したダレスは、フィーナを村の外へ行かないか誘う。
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