新緑の癒し手

「大丈夫?」

「様子を見に来たわ」

 これではダレスのもとへ行くことができないが、日頃世話になっているので邪魔扱いするわけにはいけない。また、本当に身体を心配しこのように訪ねて来てくれたのだから、それ相応のお持て成しをしないといけない。フィーナは二人を招き入れると、お菓子を探す。

「気を使わなくていいわ」

「そう、休んでいないと」

「で、ですが……」

「病人を働かせるほど、私達は愚かじゃないわ」

「それでしたら……」

 お持て成しができないことが心苦しいが、フィーナは言葉を受け入れ椅子に腰掛ける。尋ねられるのは身体の状況と、体調が悪い時こそ美味しいものを食べないといけないという、独自の理論。しかしダレスとのこともあるので、フィーナは美味しいものでも喉が通らない。

 それを悟られてはいけないと、フィーナはどのような食べ物がいいか尋ねる。彼女の質問に二人は、自分達が体調を悪くした時に食べている料理について話していく。あれは美味しく胃に優しいが、あの食べ物は消化が悪く病状が更に悪化してしまう――など、説明する。

 また、時に自分達に頼っていいのだと、フィーナを安心させる。二人の気遣いにフィーナの心がチクっと痛むが、ダレスとのギクシャクした関係について相談することはできない。ただ、二人の厚意に感謝し、このようにお見舞いに来てくれたことに礼を言うのだった。

「いいの」

「貴女は、頑張っているわ」

「それは、皆もわかっている。懸命に仕事を頑張っていて……評判がいいのよ。で、貴女の顔を見たからこれで帰るわ。これ、二人からのお見舞いの品。これを食べて、早く良くなってね」

 二人が帰宅する前にテーブルの上において置いていった代物は、ハーブが加えられたチーズ。これを適当な大きさに切ってパンの上に乗せ、竈で焼けば美味しい料理に変化する。フィーナもチーズパンは好きだが、同様にダレスも美味しいと言って食べてくれる料理のひとつ。

 その料理を夕食に用意したら、喜んでくれるだろうか。ハーブチーズに視線を落としつつそのようなことを考えていると、ダレスのもとへ行き謝らなければいけなかったことを思い出す。フィーナはハーブチーズを油紙に包み棚の奥へ仕舞うと、駆け足で家を飛び出した。
< 273 / 332 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop