新緑の癒し手

 仕事から帰る途中、ダレスが父親と真剣に話す姿を目撃していたので、仕事を手伝っている可能性が高い。フィーナはそう判断を下すとレグナスの家に向かうが、生憎ダレスの姿はない。レグナスの話では先程まで仕事を手伝って貰っていたらしいが、完全に入れ違いなってしまった。

 また、ダレスは今何をしているのかわからないという。こうなると自分で村の中から捜しださないといけないが、いかんせん村は思った以上に広い。それに村の外に出掛けているとしたら、流石に外まで足を伸ばすわけにはいかず、それに体力があるわけではないので辛い。

 このまま捜すべきか。

 それとも――

 フィーナが出した結論は、家でダレスの帰宅を待つというもの。捜し回ったところで入れ違いは確実で、それに一番の問題は体調が悪いと嘘を付いていること。その状況で村の中を駆け回っている姿を見られたら、仲間から何と言われるか――冷ややかな視線と、小言は間違いない。

 結局、何もできない自分にフィーナは溜息しか漏れない。頭の回転が速いダレスやヘルバであったら、もっといい方法を思い付くかもしれないが、今の彼女はこれが精一杯の考え。また、どこかで自分の身を守りたいという本心が見え隠れていることに、嫌悪感に近いモノを感じる。

 重く圧し掛かる、ヘルバの指摘。何かしてやらなければいけないのに、何もできない自分にフィーナは項垂れてしまう。彼女は踵を返し家がある方向に身体を向けると、重い足取りで帰路に付く。途中で村人にすれ違わなかったのが彼女にとっての幸いか、顔色が真っ青だった。




 その夜、遅い時刻にダレスは帰宅した。やはり朝と同じく余所余所しい態度を取り続け、用意された食事は半分しか胃に納めない。ダレスの話では特に身体の具合が悪いわけでもなく、ましてやフィーナの料理が美味しくないわけではない。ただ、気分的なものだと話す。

 食事後、ダレスはいつものように温泉に向かうが、本当に彼が温泉に行くのかどうか心配なので、フィーナは片付けを途中で止めダレスの後を追うことにする。するとフィーナの気配を感じ取ったのか、ダレスは足を止め振り返ると「何をしている」と、疑問を口にした。

 彼の疑問にフィーナは即答できず、また動揺を隠しきれない。何も言ってこないフィーナにダレスは肩を竦めると、温泉に行くだけなので心配しなくていいと話す。だが、聞きたいのはそのようなことではなく、また何を思ったのかダレスと一緒に温泉に入りたいと頼む。
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