新緑の癒し手

「……悪い」

「どうして、謝るの?」

「本当は、きちんと言わなければいけなかった。だけど、どう言えばいいかわからなくて……」

「私こそ、ダレスの気持ちに……」

「いや、俺が……」

 フィーナを大切に扱わないといけないと頭では理解しているが、感情が伴わなくなってきた。ダレスがこのように距離を取っているのも、フィーナに何か仕出かすのではないかと危惧しているからだ。それに仕出かしてしまえば、取り返しのつかない結果を招いてしまう。

 ダレスの言葉を耳にし、フィーナは自分が彼の心を苦しめていると気付く。だからといって謝って解決するほど生易しい問題ではなく、謝れば謝るほど彼を苦しめていく。何を思ったのかフィーナは湯に浸かりながらダレスの側へ行くと、そっと逞しい彼の背に触れた。

「……凄い傷」

「全部、古傷だ」

 傷の中で唯一判明するのは、フィル王子との剣対決の時に負った傷。それ以外の無数の傷は、どうして負ったものか。ふと、フィーナは古傷の原因について詮索しようとしたが、ダレスの触れられたくない過去を抉ってしまうのではないかと思い、それについて口をつむぐ。

 きっと、神殿で何か――

 そう思うと、心が痛みだす。

「……フィーナ」

「何かしら」

「いや……」

 フィーナに視線を向けた瞬間、ダレスは視界に映り込んだモノによって途中で言葉を止めてしまう。白濁の湯に浸かっているので全身は判明しないが、今互いに入浴中である。そして汗が微かに滲むデコルテや胸の谷間は艶めかしく、ダレスの身体の奥底を刺激しだす。

 普段のダレスと違い余裕が感じられない姿に、フィーナは首を傾げる。湯にのぼせてしまったのか、それとも具合が悪いのか――しかしダレスからの反応は無く、荒い呼吸の中無言が続く。

 刹那、ダレスはフィーナをきつく抱き締めると、唇を重ねた。突然の出来事にフィーナの身体は微かに反応を示すが、自分を抱き締め口付しているのは愛している人物。セインに強引に奪われた時のような不快感はなく、それどころか顔が焼けるように熱くなっていく。
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