新緑の癒し手

「……嫌じゃないの?」

「経験?」

「う、うん」

「そんなことはないよ。それどころか、嬉しいよ。誰かとそのようなことがあったら、そいつはどんな奴だったのかって考えて……ヘルバには内緒だけど、結構そういうのは気にする」

「でも、ダレスは……」

「本心は、こっちだ」

 ダレスの意外な一面に、フィーナは驚いてしまう。冷静に見えながら、本心は嫉妬深い。これもフィーナを心の底から愛しているからこそのもので、だからこそセインに押し倒された時は感情の制御が上手くできず、一方的に痛め付け、止めとばかりに踏み付けまで行った。

 フィーナは経験がない自分に「嬉しい」と言ってくれたことに安堵の表情を浮かべると、自分からダレスに抱き付く。素直で初々しい反応にダレスも彼女に抱き付くと、やっと結ばれることに幸福を覚える。

 長く。

 遠く。

 本来であったらこのようなことは有り得ないことであったが、運命の歯車は別の意味で回り出し、結ばれてはいけないと言われていた男女を結び付ける。これこそが女神の意志か、また何かしらの心境の変化なのか。どちらにせよ、愛し合う者同士が結ばれることができた。




「いや、あれは……」

「だって」

「いいんだ」

「おかしくない?」

「そんなことはない。フィーナがそう思っているのなら、それでいいよ。俺も、嬉しいから」

「……ダ、ダレス」

「可愛いな」

「もう!」

 フィーナの初々しい態度に、ダレスは全く気にしてはいという。寧ろ、素直に反応を示してくれた方が嬉しく、何も反応がない方がそれはそれで悲しい。そのように話しフィーナの気持ちを落ち着かせると、フィーナがいいというのならずっと側にいて欲しいと本音を伝える。
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