新緑の癒し手

「いいの?」

「勿論」

「村の人は?」

「それより、フィーナの考えは?」

「私は、一緒にいたい」

 ダレスが余程嬉しかったのだろう、フィーナは力強く答える。彼女の発言にダレスは頷くと、一緒にいることを望んでくれたことに感謝する。するとフィーナが、再度村の者について尋ねてくる。彼女にとってダレスと一緒にいたい気持ちは強いが、やはり彼等の反応が気に掛かる。

「どう接してくれる?」

「……皆、優しい」

「それは、見ていてわかる」

「皆とお喋りをしていても楽しくて、愉快で……相談にも乗ってくれ……毎日が、充実しているわ」

「確か、一緒に買い物に……」

「料理も教えてくれるの」

「ああ、だからレシピが増えたのか」

「竜の村独特の料理とか……ちょっと難しいけど、ダレスの故郷の味だもの一生懸命に覚えるわ」

「楽しみにしている」

 フィーナの発言にダレスは、それなら素直に受け入れているという証拠であり、これについて何ら問題はないと話す。また、受け入れていない者にあれこれと竜の特徴や風習を教えるわけがなく、このようなことからもフィーナが村の一員になった証拠といってもいい。

 それに血の力を失った後、故郷の地を踏むのも憚られるだろう。忘れ去りたい現実を突き付けられたことに、フィーナの顔が曇りだす。いい雰囲気に水を差す発言をしてしまったことにダレスは謝るが、フィーナは頭を振ると、こればかりは仕方がないと薄らと涙を見せる。

「村を出る時、皆……怖かった」

「怖い?」

「お父さんもお母さんも、それに友達も村の人も……皆、私を私として見てくれなかった……」

 フィーナは気丈に振る舞うが、本心は違っていた。押し潰されそうなほどの現実に恐怖心を抱いているらしく、身体が微かに震えていた。ダレスが側にいなければ泣きじゃくっていたに違いない彼女に、そっと頬に唇と落とし、ずっと側にいるから安心していいと言い心を救う。
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