新緑の癒し手
わかっている。
言い聞かせるように、心の中で呟く。
そもそも、互いに愛し合い関係を結んでいるのだから、躊躇う必要などない。それにフィーナも明確に言葉に表しているのだから、ダレスが口にしないわけにもいかず、そのように言ってくれることを望んでいる。逃げなど許されず、それではフィーナに失礼に当たる。
だから――
ダレスは意を決すると口を開き、想いを口にする。
愛している――と。
「……ダレス」
「なかなか言えなくて、すまない」
「そんなことはない。だって、こうやって……」
ダレスの口から明確に愛の言葉を言われたことが嬉しかったのだろう、フィーナの頬が紅潮していく。やっと、一番欲しかったモノを手に入れることができた。幸福そのものといっていい時間にフィーナは酔い痴れ、きつくダレスを抱き締めると自分も愛の言葉を囁くのだった。
「ねえ、ダレス」
「うん?」
「私、ダレスに会えて良かった」
「急に、どうした?」
「辛いことや苦しいことがいっぱいあったけど、こうやって誰かを好きになることができたから」
「それは、俺も同じだ」
「借りた本を読んでいて、自分もこうなればいいって思っていたの。本の中の人は、幸せそうだった」
「本来、人は優しい」
しかし血の力に溺れたことにより、彼等の中から「優しさ」が消失してしまった。唯一残されたのは、人間達がつむぎ書き記した物語の中。もし血の力が存在しなかったとしたら、人間は他の種族と仲良くやっていたかもしれないが、それは可能性の問題でハッキリとはしない。
フィーナは寝台に身を横たえているダレスに寄り掛かると、途切れ途切れに自身の夢を語っていく。前にダレスに話した海が見たい他に、知らない土地で多くの発見をしたいという。世界はどれだけ広いのか、どのような物が存在しているのか。それらのひとつひとつをフィーナは知りたかった。