新緑の癒し手
「確か、以前……」
「見せて欲しいと、言ったけど……」
「なら――」
「それでも、やっぱり……」
ダレスの笑顔が見られたことは嬉しいが、不意打ちとも取れる攻撃には完全にやられてしまった。悔しいといえば悔しいが、それとは違う複雑な感情にフィーナは上手く説明ができない。彼女の可愛らしい態度にダレスは軽く口許を緩めると、起きられるかどうか尋ねる。
「無理……かも」
「痛むか」
「うん」
フィーナの切実な訴えに、ダレスは何とも複雑な表情を浮かべる。仕方ないといえば仕方ないが、昨晩あれだけのことをしていたのだからフィーナの身体は悲鳴を上げてしまう。ましてや、華奢でか弱い肉体。これだけの痛みで済んだことが、ある意味奇跡といっていい。
また、白い肌の表面に目立つのは、痛々しいまでの無数の歯型。これらの痕はダレスが付けたもので、勿論ハッキリと覚えているが、数までは数えていない。感情によって――といえばそれまでだが、これだけの数を付けたとなると、フィーナに謝らなければいけない。
「……御免」
「これって、愛情表現でしょ?」
「まあ、竜族の……」
「なら……」
「だけど、やり過ぎた」
「でも……」
愛してくれているからこそ、自分に噛み付いた。それならいいとフィーナは言うが、今度噛み付くようなことがあれば、ちょっとだけ手加減して欲しいと、小声で付け加える。嫌われてもおかしくない行為を受け入れてくれたことに、ダレスは何も言えなくなってしまう。
「それより、ダレスは?」
「俺は、平気だ」
「凄く……」
と言いかけ、昨晩の出来事を思い出してしまい赤面してしまう。フィーナは反射的に視線を逸らすと、掛け布団を引き上げ全身を隠してしまう。だが、その反動で全身に痛みが走り、思わず苦痛に呻く。フィーナの声音にダレスは「大丈夫か?」と尋ねるが、返答はない。