新緑の癒し手

「今日の掃除は、俺がやっておく。フィーナは、今日はゆっくりとしていていい。まずは、休まないと」

「……有難う」

「いいさ」

 優しく言い返すと、ダレスはフィーナと共に温泉へ向かう。ダレスの言葉の通り、早い時刻だったので誰も温泉を利用していない。これなら誰にも気付かれないと、フィーナは温泉に浸かり、疲労が蓄積した身体を癒す。一方ダレスも温泉に浸かり、のんびりとした時間を過ごした。




「調子は?」

「楽になったわ。薬が効いているのもあるけど、温泉に浸かったのが一番良かったのかもしれない」

「良かった」

 フィーナの話にダレスは、安堵の表情を浮かべる。無理をさせてしまった分、あれこれと優しくしないといけない。それが過度に働いているのか、ついつい過保護になってしまう。フィーナはダレスの言動が愉快だったのか、クスクスと笑い出会った当初と違うと話す。

「あの時は、感情を出すことができなかった。出せば、多くに……フィーナに、迷惑を掛けた」

「でも、今は……」

「これを喜んでいいものかわからないが、血の影響が薄まっていることにより、本来の感情を――」

「いいと思う」

「血は、いらないか」

「これが、あるから――」

「……そうだな」

「なければ、もっと……」

 血の力さえ無くなってしまえば、人間は自分が置かれている立ち位置を見直すかもしれない。それは淡い期待のようなものだが、本当の意味で血の呪縛に縛られているのはダレスではなく、人間そのものではないか。それに頼れば頼るほど、人間は退化の道を辿っていく。

 フィーナは竜の村で世話になったことにより、彼等が持つ他者を思い遣る優しさに触れた。竜は凶暴で恐ろしく――と実しやかに語られているが、彼等はそのような面を持ち合わしてはいない。それどころかおかしいのは人間の方で、フィーナは自分の種族が情けなくなってしまう。
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