新緑の癒し手
もっと多くのモノを見て、多くのモノに触れ合わないといけない。それが他者と触れ合い、フィーナが学んだこと。強い意志を持ち自分自身の意見を言えるようになったフィーナに、彼女の成長を知る。これについては、神殿で課せられた運命に嘆いていた頃とは段違いだ。
「でも、血によってダレスに会えて……こうやって……嫌な面も多かったけど、嬉しいことも……」
「……確かに」
「少しは、感謝かしら」
巫女に選ばれなかったら、どのような人生を歩んでいたのだろうか。勿論、ダレスとの接点など生まれるわけがなく、村の誰かと恋に落ち結婚していたかもしれない。それはそれで幸せな道を歩めるかもしれないが、フィーナはダレスと出会ったことの方が幸せだと話す。
頬を微かに紅潮させながら話すフィーナに、ダレスも血の呪縛は厄介だったが、フィーナと出会えたことに関しては感謝しているという。彼女に出会えたからこそ、諦めていた「誰かを愛する」という行為が行え、そして愛しい者を全身全霊を込めて抱くことができた。
「まあ、ただ……」
「無理をさせてしまった」と続けようとしたが、途中でダレスの言葉が止まってしまう。フィーナも瞬時にその理由を察し、気まずい表情を浮かべる。彼等の前に姿を現したのはレグナスで、訝しげな表情をしている。このまま無言で立ち去るべきだが、雰囲気がそれを許さない。
「早いな」
「まあ……色々と……」
「何を隠している」
「いや、何も――」
流石に父親に昨晩の出来事を話すわけにはいかないので、ダレスは曖昧な言い方を繰り返す。息子の動揺に何かを悟ったのか、レグナスは二人の側に歩み寄ると、徐にフィーナに視線を落とす。すると曖昧な言い方の理由を察したのか、レグナスはフッと笑うのだった。
「……程々にしておけ」
「ち、父さん」
「図星か」
レグナスの的確過ぎる言い方に、ダレスだけではなくフィーナの身体もピクっと反応を示す。しかしこれについてとやかく言うことはせず、それどころか愛している者同士が結ばれたことを喜ばしく思う。だが、レグナスが肝心な部分を見落とすわけがなく、それについて尋ねた。