新緑の癒し手
「血の影響が薄まった」
「何!?」
「時折、髪の色が……」
「なるほど」
「女神は……」
「多分、そうだな」
レグナスの言い切りに、フィーナの表情が曇る。そして、自分が血の力をいらないと言ってしまったから、女神が怒っているのではないかと動揺しだす。フィーナの意見にレグナスは頭を振ると、そのようなことは関係していないと言い安心させると、物事の本質を突く。
こうなることは、前々から何となくわかっていた。人間は女神が一度与えた立ち直りの機会を無碍にし、再び血の力に頼り過ぎた。あまつさえ、巫女そのものを道具と見做し、全ての自由と感情さえも否定した。その結果が、今ダレスとフィーナの身体に表れている現象だと語る。
「血の力は失われる」
「では、私は……」
「もう、採血に苦しまなくていい。自由に生き……というより、ダレスと一緒にいるのがいいだろう。ダレスの方も、貴女を手放したくないようだ。まさか、お前がここまで感情的とは……知らなかった」
感情を表面に出さずに生活していたので、流石のレグナスもダレスの性格までは把握しきれなかった。いざ感情を表すようになれば好いている人を情熱的に抱き、足腰が立たないまでにしてしまう。だが、これも竜の特性のひとつなので、あれこれと言うことはできない。
レグナスは息子の行動に口許を緩めていたが、何か大事なことを思い出したのか瞬時に冷静な面を取り戻す。血の絶大なる力によって、人間は傲り高ぶり他の者を見下してきたが、失われた後彼等はどのような行動を取るのだろうか。一番恐れるのが、暴発に伴う暴動だ。
「これについては、まだ村の者には内緒だ。下手に騒がれては面倒だ。それに、後で話がある」
「昼過ぎなら」
「それでいい」
「彼女は?」
ダレスの言葉に、レグナスは頭を振る。確かに巫女という立場上、今後の出来事に大きく関わって来るが、彼女が聞いていい話と悪い話が存在する。昼過ぎに行う話は後者に当たり、できるものならフィーナには参加しないでほしく、ダレスと二人っきりで話したいという。