新緑の癒し手

「その気持ちだけで、嬉しいよ。それに、フィーナの身体が心配だから、そう言っているんだ」

「で、でも……」

「いいんだ」

 ダレスの心遣いと気遣いに、フィーナは何も言えなくなってしまう。ダレスの手伝いをしたいと思って言った言葉だが、それが逆に彼を困らせてしまう。それに気付いたフィーナは俯くと、一言「御免なさい」と謝ると、ダレスが掃除を終えるのを静かに待つことにした。

 彼女の反応にダレスは少し言い過ぎたと思ったのか、美味しい紅茶が飲みたいと言い出す。ダレスの言葉にフィーナは俯いていた顔を上げると、自分が淹れてきていいのか聞き返す。それに対しダレスは「これくらいなら心配しない」と言い、再度美味しい紅茶を頼む。

「わかったわ」

「熱いのがいい」

「ミルク?」

「今日は、ストレートで」

「一緒にいい?」

「勿論」

「お菓子は?」

「できれば」

「すぐに用意するわ」

 ダレスの頼みにフィーナは嬉しそうに微笑むと、紅茶を淹れに向かう。しかし途中でふら付き倒れそうになってしまうが、何とか壁に寄り掛かり転倒を免れる。彼女の無事を確認すると、ダレスはフッと短い溜息を付く。そして、何だかんだと言いつつ自分は彼女に甘いと認識する。

(……仕方ない)

 神殿で暮らしていた頃なら、このようなことを頼むことをしなかった。世の中には「惚れた方の負け」という言葉が存在するが、まさにこの言葉が適切だろう。ダレスは自分自身の心境の変化が面白かったのだろう、微笑を浮かべると掃除に必要な道具を寄りに行くのだった。




 掃除を終えフィーナが淹れた美味しい紅茶を味わったダレスは、父親のもとへ向かい今後に付いて話し合う。巫女の血の力が失われ、一番動揺を見せるのは神官だろう。その次に多くの人間に伝染し、国中が大混乱に襲われるとレグナスは話す。それについてダレスも同意見らしく、頷き返す。
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