新緑の癒し手
「父さんの跡を継ぐよ」
「いいのか?」
「最初は継ごうと思わなかったけど、フィーナが側にいるから。彼女がいるから、俺は……」
「フィーナの存在が大きいか」
「……かなり」
「そう、恥ずかしがるな」
どのような理由であれ、ダレスが竜の村に止まり次期族長になることを選択したことは喜ばしい。レグナスは頷くと「期待している」と一言返し、息子の肩を叩くのだった。父親の期待にダレスは背筋を伸ばし返事を返すが、緊張していた影響だろうか声音が裏返ってしまう。
「気張るな」
「……努力します」
「気張っているじゃないか」
「それは、父さんが……」
「落ち着け」
父親の言葉が余計重荷になってしまうのか、ダレスの緊張は続く。しかしレグナスにとってダレスの宣言は喜ばしいもので、一族を率いる立派な人物に成長して欲しいと願う。それについて明確に言葉に出すことはしないが、ダレスは雰囲気で父親の気持ちを瞬時に悟る。
「族長、では……」
「言葉の通りだ」
「わかりました」
「族長の考えに、異論はありません」
この瞬間、竜族を率いる次期族長がダレスと決定する。守護に当たっていた二人はダレスに対し恭しく頭を垂れると、次期族長就任を心から祝福していると述べる。突然の対応の変化にダレスは驚きを隠せず、仲間なのだからそのような態度を取らないで欲しいと頼む。
だが、それについてレグナスは頭を振る。竜族は仲間意識が強い種族だが、だからといってそれに甘んじていいものではない。族長の地位に就くべき人物は力が強く、多くの者を統率するカリスマ性が重要となってくる。だから公使混同をせず、けじめを付ける時はつけないといけない。
それが先程の対応で、次期族長を認めたからこそダレスに頭を垂れた。その対応は村に戻った時も変わらず、こそばゆいからといって止めて欲しいと言ってはいけない。そう語る父親にダレスは一瞬戸惑いを見せるも、それが族長の地位を継ぐ者の定めだと受け入れた。