新緑の癒し手
力強く自身の決意を示すと、一言言葉を放つ。
宜しく――と。
息子の発言にレグナスは力強く頷くと、この場所に止まる理由はなくなったので村に戻ろうと促す。ダレスは父親の意見に一度は同意するが、何か重要なことを思い出したのか父親に向かい、ある物を取ってきたいと言い出す。それは母親との思い出の品が関係していた。
「母さんを連れて行かないといけない。だけど墓を掘るわけにはいかないらから、遺品だけ……」
ダレス曰く、この機会を逃してしまったら永遠に父と母が離れ離れになってしまう。だから遺品だけでも村に持ち帰りたい。息子の心遣いに胸がいっぱいになってしまったのか、レグナスはただ頷いて了承するしかできない。また溢れ出す涙を隠すかのように、視線を逸らす。
すまない。
そして、有難う。
消えそうなほどの声音で囁かれたのは、息子に対しての感謝の言葉。全てがハッキリとダレスの耳に届いたわけではないが、何を言いたいのか理解したのだろう微笑を浮かべるとフィーナと共に神殿に立ち入り、昔自分が使用していた部屋から母親の遺品を数点持ち出す。
お前達は、幸せにならないといけない。
それがレグナスの願いであり、ルキアと共に離せなかった夢を若い恋人達に託すのだった。
レグナスはいまだ慟哭が響く場所に視線を合わせると、人間が導いた過ちを愁う。ひとつの歴史が終了し新しい歴史が誕生したが、果たして――しかし結論を出すことはせず、傍観を選択した。
だからレグナスは何も見聞きしなかったと自分に言い聞かせると、妻の遺品を持ち戻って来る明るい希望に満ちた二人を出迎える。そして、血の呪縛から解放された地を後にした。