新緑の癒し手

「中身は?」

「産着だ」

「有難いけど、多くないか?」

「洗い替えがあった方がいいだろう? それにお前達夫婦の場合、子供が一人っていうのも……」

 口許を緩めながら話すヘルバに対し、ダレスとフィーナは同時に顔を紅潮させてしまう。見事とも取れる変化にヘルバはケラケラと笑うと、仲のいい夫婦なのだから二人目を設けないと勿体なく、それに一人っ子は何かと寂しい思いをするので兄弟がいた方がいいと熱弁を繰り返す。

「そうか、ヘルバは……」

「一人」

「その気持ちはわかる」

「遊んでいる時は一人っ子でも寂しくないが、いざ一人になると無性に寂しくなる。だから兄弟は多い方がいい」

「って、お前……」

「何?」

「作れってことか」

「お前達次第」

 二人目に関してはフィーナと相談しないといけないので、ヘルバがあれこれ言っていい問題ではない。また、子作りの話題が過熱していることにフィーナの頬は更に赤みを増し俯いてしまう。それ以上にダレスと視線を合わすことができないのだろう、編み物で顔を隠す。

「ヘルバ!」

「怒るな」

「怒っていない」

「怒っているじゃないか」

「煩い!」

「やっぱり、怒っている」

 これ以上、夫婦生活を邪魔すると何をされるかわかったものではないので、ヘルバは一目散に退散することにした。見事とも取れる逃げっぷりにダレスは肩を竦めるが、だからといってヘルバのことを本気で怒っているわけではない。それにこのような話ができるのは、仲がいい証拠。

 友人が逃げ去った方向に向かいダレスは苦笑すると、頬を赤らめているフィーナに視線を合わせ、おやつにしないか提案する。彼の提案にフィーナは顔を隠していた編み物を避けると、オドオドとした態度で頷く。彼女の返事にダレスは頷くと、建物の奥の奥へ向かい菓子を探しだす。
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