新緑の癒し手
「……ダレス」
「何?」
「その……二人目だけど……」
「二人目というより、お腹の子供を無事に出産することを考えないと。人間の初産は難産だと聞く」
「うん。有難う」
「で、産まれて来る子供の名前なんだけど……男の子ならリーフで女の子ならセリナって考えているけど、どうかな? フィーナが他の名前を考えていたら、其方の名前を優先するけど」
「そんなことない。素敵な名前」
ダレスがお腹の子の名前を考えていてくれたことが嬉しかったのだろう、フィーナの微笑むと自分も手伝うと言い椅子から腰を上げる。しかし身重の身体で働かせるわけにはいかないとダレスはフィーナの行動を制するが、座ってばかりでは運動不足になり逆に身体に悪いと言われてしまう。
「それに、女は母になると強いの」
「それ、わかる気がする」
「それと……何かあったら、助けてくれるでしょ?」
「勿論」
胸を張ってそのように言ってくれるダレスの発言は、フィーナにとって心強い。この人を伴侶として選んだことは間違っておらず、強くてかっこいい自慢の夫。これを言うには照れが生じるが、このような機会ではないとなかなか言うことができないので小声で伝えた。
「えっ!?」
「恥ずかしいから、これ以上は……それよりお茶とお菓子の用意をして、おやつにしましょう」
「あ、ああ……」
アタフタしているフィーナに対し、ダレスはフッと表情を綻ばす。これこそ、互いに待ち望んでいた幸せというべきものだろう。しかし先程の発言で照れが生じたのか、後に続く言葉が見付からない。それでもフィーナの側にいたい気持ちは強く、彼女の後を追うと共におやつの準備を進めた。
その後、臨月を迎えたフィーナは可愛らしい男の子を出産し、ダレスが決めていたリーフと名付けられる。彼女の出産は竜と有翼人の両方から祝福され、新しい命は多くの者から歓迎を受けた。特に繁殖力が低い竜族の喜びようは一入(ひとしお)で、年老いた竜が孫のように可愛がった。