新緑の癒し手
「ですので、フィーナ様が作られる菓子を楽しみにしています。できれば、参考にしたいです」
「だ、駄目」
「何か不都合でも?」
「お菓子を作れるといっても、得意というわけではないの。だから、参考にされるのは……」
「そうでしたか。失礼しました」
「でも、頑張って作るわ。ダレスの口に合えばいいけど……何か、苦手な食べ物はあるかしら」
「いえ、特に」
それを聞き、フィーナは頭の中で何を作ろうか考えていく。といって作れる種類が多いわけではなく、失敗せずに確実に作れる菓子といえば乾燥した果物を入れた焼き菓子くらいだ。
真剣な表情で考え事をしているフィーナに話し掛けては失礼と判断したダレスは椅子に腰掛けると、紅茶を口に含み味を楽しむ。そして、彼女から話し掛けてくるのを静かに待ち続けた。
◇◆◇◆◇◆
その夜、フィーナはダレスから借りた本を読んでいた。最初は明日に差し支えない程度という形で読み始めたが、物語の展開と主人公とヒロインの動向が気になり、頁(ページ)を捲る手が止まらない。
あと、数頁。
この章が終わるまで。
そのような形で読み進めていた結果、全体の半分以上を一気に読んでしまった。フィーナが読み耽っていた本を止めた理由は、眠気が襲ってきたからというわけではなく目が疲れたから。もし目の疲れを感じなかったら、最後まで読んでしまったかもしれないほど面白い。
彼女が読んでいた本の内容は、主人公とヒロインが伝説の宝物を探しにいくという、王道の冒険ファンタジー。しかし王道の展開だからこそワクワク感やドキドキ感を誘い、自分がこの物語のヒロインになったような錯覚を覚える。また、彼等の行動や発言に共感する。
まだ、一冊も読み終わっていないが、何故ルキアが多くの本を集めていたのか、彼女の気持ちの一部分に触れた気がした。これらの本は、神殿の中で暮らし自由に外へ出られない巫女が唯一外の世界を知ることができる手段。だからルキアは、沢山の本を集め読み耽った。