新緑の癒し手
癒しの巫女が来る。
それだけで、誰もが浮き足立つ。
その時、複数の神官が若者の前に走り抜けていく。邪魔になってはいけないと反射的に場所を譲るが若者が側にいたことに気付いた神官達の表情が歪み、冷徹な視線を一斉に向ける。だが、このようなことをしている場合ではないので、神官達はさっさと立ち去ってしまう。
誘拐に。
ふと、彼等の姿に若者の脳裏にその単語が思い浮かぶ。確かに「誘拐」という言葉は正しい。現在暮らしている場所から誘拐し、神殿に軟禁する。彼等は「巫女様」とその者を崇め奉り、同時に血を採取していく。それが数百年続けられているのだから、感覚が完全に麻痺しているのだろう。
それに犠牲になるのは巫女だけで済み、それで多くの者が救えるのだから血を求める者達にしてみれば特に心を痛める必要などない。過去の母親の悲劇的な姿を思い出した若者は、新しい巫女の未来が闇の中ということを知っている。また、最悪な結末を迎えることも――