新緑の癒し手

 動揺が広がる中で数名の侍女が、ダレスが用事から戻って来たことに気付く。彼女達は瞬時にダレスの周囲を取り囲むと、口々に「何とかして欲しい」と頼むが、神官達はいい顔をしない。

 だが、現在の状況を打開できるのはダレスしかいない。周囲があれこれと文句を言い邪険に扱っているが、フィーナが信頼を置いているのはダレスで、彼に頼むしか最善の方法がない。

 扉の前で集まっていた神官と侍女は道を作り、ダレスを通す。そしてダレスは扉の側へ行くとフィーナを呼ぶが、返事は返って来ない。反応がないことにダレスは暫し間を置くと、再度フィーナを呼ぶ。すると今度は返事が返り、扉の前に集合している者達を喜ばした。

「……ダレス?」

「はい」

「用事……終わったの?」

「はい」

「もっと、掛かると思った」

「半日もあれば」

「……凄い」

「いえ」

 彼等が交わす短いやり取りに苛立ちを覚えたのか、数名の神官が彼等のやり取りに横槍を入れようとしたが、瞬時にダレスに制されてしまう。今、この状況で第三者の割り込みは邪魔の何物でもない。それに下手に横槍を入れたら、フィーナが扉を開く切っ掛けを見失う。

 そう、フィーナの耳に届かないように馬鹿な行動を取ろうとした神官達に説明していく。ダレスの真っ当な意見に反論できない神官達は、押し黙るしかできない。だが、ダレスの説明に言い返せなかったことが悔しいのだろう、彼等のダレスを見る目は氷のように冷たい。

「……ダレス」

「何でしょうか」

「鍵……開ける」

「わかりました」

「でも、入っていいのはダレスだけで……お願い、他の人は入って来ないで……今は、嫌なの」

 「鍵を開けてくれる」という言葉に神官や侍女は喜びを全身で表現したが、次に彼女が発した「ダレスだけ」という言葉に一瞬にして喜びが冷めてしまい、どうしてダレスだけが呼ばれるのかという疑問を、一人の神官が言葉に出してしまう。結果、漂う空気が一変する。
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