新緑の癒し手
フィーナの側にいる若者の名前はダレス。彼は巫女の教育係兼守護者の役割を持つのだが、彼の性格が性格なのでフィーナとの関係は、何処かギクシャクしているように見えなくもない。
しかしダレスは巫女であった母親との約束があるので彼女から相談を受けた場合適切な言葉を返すが、相談に乗っている時も常に無表情で発する声音も淡々としている。一言で言えば「何を考えているのかわからない人物」と表現できるが、フィーナはダレスを嫌ってはいない。
確かに両者はギクシャクしているように見えるが、だからといって本当に仲が悪いというわけではなく、フィーナは彼の授業を真面目に受け、欠席や講義を拒絶したことは一度もない。
先程までダレスが講義していたのは、女神イリージアに纏わる神話と癒しの巫女について。最初は難しく理解し難い内容であったが、ダレスの説明が上手いので徐々に理解していく。
フィーナは勉学が嫌いというわけではないが、といって得意としているわけではないので「勉強」と聞いた時は身構えてしまったが、ダレスの丁寧な説明に勉強の面白さを知った。
その面白いと思う勉強も、途中で止まってしまう。物思いに耽るフィーナの姿を見たダレスが、講義を止めてしまったのだ。物思いに耽っていたことによりダレスの講義を半分以上聞いていなかったことを相手が不満に思い、一方的に途中で止めてしまった。そのように思うフィーナだが、ダレスが表面に感情を出さないのでその考えが正しいかどうかわからない。
「医師を呼びますか?」
「い、いえ」
「では、講義を再開して宜しいでしょうか? ご気分が優れないようでしたら、終わりにします」
「大丈夫です」
「それなら宜しいです」
「その……お願いします」
「わかりました」
普段であったらすぐに講義をはじめるダレスであったが、礼儀正しく敬語を用いるフィーナの態度に不満を感じたのか「敬語は使用しないで下さい」と、これまた淡々とした口調で注意する。
フィーナは癒しの巫女で多くの人々が尊敬し敬愛する対象なので、下々の者に敬語を用いる必要はない。だが根が優しく礼儀正しいフィーナが、簡単に敬語を用いない喋り方はできなかった。また村で生活していた時、目上の人に敬語を用いていたので簡単に癖は抜け切れない。