新緑の癒し手
「……助かる」
「いいさ。それにこの件に関しては、頼める相手は他にいないだろう。今、置かれている状況では――」
「ああ」
「という訳で、紅茶と菓子」
「そうだったな」
「久し振りに、お前が使った菓子が食いたい。苦手と言いながら、お前の菓子は美味いからな」
「煽てても何も出ない」
自分が言いたいことを読まれてしまったことにヘルバは、誤魔化すように笑い出し「冗談」と繰り返すが、彼が本当に冗談と言っているようには思えない。というか、態度が伴っていない。
といって、嘘や冗談でダレスが作る菓子が美味いと言っているわけではなく、本当に彼が作る料理は美味い。だからこそ、このようにダレス手作りの料理を期待してしまうのが心情だ。
「例の件の後でいいか?」
「勿論」
「礼で渡す」
「期待している」
ヘルバの言葉に返事を返す形で利き手を軽く上げ挨拶を送ると、ダレスは紅茶と菓子の用意しに向かう。ふと、先程のヘルバとのやり取りで、ダレスはフィーナと交わした約束を思い出す。
以前彼女は、ダレスの為に菓子を作ると約束してくれた。それがいつになるのかはわからないが、果たして彼等がフィーナの料理を許してくれるのだろうか。言動として考えられるのが「危ない」「怪我をする」という難癖。その結果、彼女の行動を縛り付け一箇所に縛り付ける。
「考え過ぎ」という言葉は幻聴か――ふと、ダレスの耳に誰かの声音が届く。しかし相手はあの曲者揃いの神官なので、現実的に有り得るのだから恐ろしい。だとしたら、あの約束が果されないかもしれない。
フィーナの手作りの菓子――あの時は淡い期待を抱き楽しみにしていると言ってしまったが、考えれば考えるほど彼女の立場を理解していない愚かな言葉を返してしまったと恥じる。
それなら逆に、ヘルバに礼として渡す菓子を多めに作りフィーナに渡せばいい。何よりダレスはフィーナより立場は下で、奉仕される側ではなく奉仕する側。相手に何かを求めるのではなく自分が与えなければいけないと再度自分に言い聞かせると、再び歩みを進めた。