新緑の癒し手
だが、それでは周囲に示しがつかないというのがダレスの本音。この点も、自分の母親を見ているからだ。やはり明確に立場の差を示さないと、彼等が口喧しく言ってくる。その対象者が巫女であったとしても関係ない。所詮、彼等にとって巫女は血を生み出す道具なのだから。
「……御免なさい」
いままでの態度と口調を治せといっても、簡単に治せるものではない。勿論ダレスは理解しているが、母親が生きている頃の姿と死後との扱いを見ているとついつい厳しい言い方をしてしまうが、その声音に彼の心情が出ていないので人によっては冷たい言い方と取られてしまう。
「いえ、此方も厳しい言い方をしました。フィーナ様は以前、普通の村娘として暮していました。確かに、すぐには……しかし、周囲への示しというのもございますので、意識して敬語は使わないで下さい。これができませんと、フィーナ様のお立場も悪くなってしまいます」
フィーナの悪い部分は相手の言葉を真剣に受け取ってしまい、このようにすぐに落ち込んでしまう。しかし、ダレスが言った通り「周囲への示し」というものがあるので、遭えて厳しく言う。
ダレスは彼女の性格を知っているので厳しい言葉を言った後、このようにフォローも忘れない。彼のフォローにフィーナは軽く頷き返すと、頑張って口調を変える努力をすると約束した。
彼女が「頑張る」と約束してくれたことにダレスも同じように頷き返すと、閉じていた本を開き講義を再開しようとするが、フィーナが何気なく発した言葉がダレスの行動を制した。
「何でしょうか」
「その……ダレスの髪は……」
「ああ、これですか」
「その色は……」
「そうです。この髪の色は、癒しの巫女が持つ色と同じです。それは、母が癒しの巫女でした」
自分の正体と出生に関しては多くの者達が知っているので、特に隠す必要はない。ダレスは一定の口調で母親の過去と、自分がどのように産まれてきたのかフィーナに語っていく。
ただ、一部分を隠し――
本来、癒しの巫女は次代の巫女を産む役割を持つが、ダレスの母親は女児を産めずダレスを産んだ。そしてダレスは巫女の血を引いているので、このように緑柱石(エメラルド)の色の髪を持つ。だが、一部分が他の者と違う。彼の左右の双眸は色が違い、所謂オッドアイの持ち主だ。