新緑の癒し手
勿論、途中で中断されることは気分的にいいものではなく、ついつい愚痴と共に言葉遣いが悪くなってしまう。しかしサニア側も言い分があり、大事な店の子をこのようなかたちで壊されたくはない。だからセインの行動を途中で制し、やり方について咎めるのであった。
「客だぞ」
「そういう言葉は、ツケを全額支払ってから言って欲しいものね。どうせ今回もツケ払いなのでしょう。いい加減、全額を支払って貰わないと商売にならないのよね。慈善事業じゃないのよ」
「……煩い」
「図星ね」
「だから、煩い」
名門一族出身のプライドがそのようにさせているのか、ふてぶてしい表情を作るセインにサニアは態度で表さなかったが心の中で溜息を付くと、セイン相手に精根尽きた店の子を保護する。
人生経験豊富のサニア相手に言葉で勝てないと悟ったのか、連れて行くことに対し異論を唱えることはしないが、唯一の反論というべきか舌打ちをして悔しいという態度だけは示す。
娼婦と客の関係は、所謂ギブアンドテイク。娼婦は磨き上げた身体を売り、客は金を支払いそれを買う。人間の全員が全員聖人君子として生きていけるわけではないので、だから「娼館」という場所が存在し、毎日のように男達が通い自分が持つ欲望のひとつを発散させる。
その間に、愛情が存在するのか。
いや、愛情という言葉は愚問そのもの。
そもそも男は相手に愛情を持っていなくとも、女と関係を持つことができる。それにその間に愛やら何やらが存在していたら、それこそややこしいことになってしまうので、これはこれでいいのではないかとサニアは考える。それに今のところ、セイン以外のトラブルはない。
「早く帰りな」
「客に向かって何を言う」
「私だって選ぶ権利くらいはあるわよ」
「忌々しい」
「悪態だけは立派ね」
そう言葉を発した後、サニアは寝台で気を失っている店の子を軽々と抱き上げると、セインに視線を向けることなく部屋から退出してしまう。その一連の動作と言動が癪に障ったのかセインの表情が荒々しいものへ変化していくが、本当は別の意味で表情が変化していた。