新緑の癒し手
玩具を奪われた。
現在のセインの表情から理由を察した場合、このような言葉が適切だ。彼は今まで父親の命令に従い品行方正の生活を送っていたのだが、やっとその命令が解除されたと心の底から喜んだ。
しかし、我慢に我慢を重ね蓄積したストレスがこれくらいで簡単に発散できるものではなく、尚且つ途中で玩具をサニアに横から奪い取られてしまう。雇っている子が客を取り金を稼いでいるのだが、彼女は第一に店の子の身体を考えているので決して無理をさせることはしない。
だからこそ途中で止めに入り、セインの前から店の子を奪い取った。親心にも似た素晴らしい行為だが彼にとっては不満そのものであり、自分が置かれている態度に不満を漏らす。
惨め。
孤独。
苛立ち。
そして、不満。
複数の負の感情が入り混じりセインの表情を荒々しい物に変化させていき、思わず感情を爆発させてしまう。手当たり次第に周囲の物に当たり散らし、まるで子供の用に暴れ続ける。破壊した物についての請求もツケに含まれるだろうが、今そのことを考える余裕はない。
ひとしきり暴れたセインは悔しさを篭めた大声を発すると寝台に倒れ、大の字で横たわった。自由にならないことへの苛立ちが募っていく。名門一族に生まれ不自由ない生活を送っていたが、見習いの神官になった途端「自由」が自分のもとから逃げ去り、不自由が舞い込む。
唯一の楽しみである娼館へ通うことを一時期禁止されやっと解禁になった途端、別の意味で不自由を味わう。
何故、自分だけ。
どうして、怒られないといけない。
自分は、優秀なのに。
名門一族の一員だ。
そのことに己が散々蒔いた種が影響していることに気付いていないセインは、舌打ちする。
(全て、あいつが……)
怒りの感情の矛先を向けられたのは、神経を逆撫でするダレス。セインは我が身に降り掛かる災いは全てダレスの責任と押し付け、彼の存在自体に嫌悪感を抱く。それをサニアが耳にしたら「全くの言い掛かり」や「責任転換」と言うに違いないが、彼は責任を押し付け身を守る。