新緑の癒し手
竜は巨大な身体を持つ爬虫類だが、彼等は長い年月で編み出した秘術により日頃は人間と同等の姿形を取り生活を送っている。だからこそ、ルキアと交わり子を生すことが可能だった。
しかし同時に、特殊とも言える混血故の弊害が生まれてしまう。いや、この場合ルキアが癒しの巫女だったことが強く影響しているといってもいいだろう。確かに二人のいい面を受け継いだが、それ以上に弊害の方が強く出て、ダレスを苦しめる結果になってしまった。
父親の血を強く受け継いでいるので人間の血が混じっていようが、彼の本質は竜といっていい。普段は秘術を用いて人間の姿形を取っているが、彼は感情の起伏で秘術の力が中和されてしまうのか竜の姿に戻ってしまう。だからダレスは感情を無理に封じ、生活を送っている。
それを知っているは同胞と親友のヘルバのみで、フィーナは勿論神殿にいる者達に話してはいない。そもそも彼等に話す理由がないし、馬鹿正直に話したところで彼等の考えは手に取るようにわかる。
己の好奇心を満足させるだけの為にダレスを挑発し、彼を竜の姿に戻し嘲笑うに違いない。それでも完全に竜の姿に戻ればいい方だが、竜と人間の半々の状態で戻ることも多く見た目が不気味そのものといっていい。それを見られたくないという意味で、真相を隠し続ける。
(疼くな)
ダレスは袖口を捲り上げると、自身の肌を月の光に照らす。彼の肌は女性が羨むシミひとつない肌だが、突如その表面に爬虫類の鱗が浮き出す。それは竜が持つ鱗であったが、彼の場合は色が違う。
本来、竜の鱗は漆黒。だが、ダレスの肌に浮き出した鱗はその色ではなくフィーナの髪の色と同じ緑柱石(エメラルド)。それは丁寧に研磨された宝石を貼り付けているかのように美しく、月の光を反射させる度に妖艶に輝く。これこそ、ダレスが竜と癒しの巫女の血を引いている証拠だ。
ダレスは竜の中でも特殊的で、同胞の間では〈変異種〉と呼ばれており、本来の姿は漆黒の竜ではなく緑柱石(エメラルド)の竜といっていい。そして、ヘルバが言っていた「二週間」というのもこれに関係していた。
年に一度、己の意思で人間の姿に留めておけない時期がやって来る。その時期はどのように足掻いたところで強制的に竜の姿に戻ってしまい、ダレスは他の者達の目を気にし姿を消す。
しかしそれは側に巫女がいなかったからこそ出来る行為であったが、現在ダレスの側には守るべき対象のフィーナがいる。だからその時期だけヘルバに頼み、身体が自分の意志で制御できるまで護衛を頼んだ。あの自分勝手に生きているセインの魔の手から逃れる為に――