新緑の癒し手
第三章 智者と愚者

 最近のフィーナの日課は、ダレスに面白い本を借りその本の感想と意見を語るというもの。勿論、ダレスとフィーナがこのように仲良く語らっていることを苦々しく思っている者も多いが、相手は癒しの巫女。機嫌を損ねた結果、相手が採血を拒んだら一大事と黙認している。

 神官達が己の都合を優先する為に、意図的に黙認しているということに気付いていないフィーナは、今日いつものようにダレスの自室を訪れ、読破した本の感想を語っていく。今回の話は彼女の好みに当て嵌まったのか、フィーナの表情は明るく語る口調も弾んでいた。

「最初、駄目かと思いました」

「大体の話が、大丈夫のことが多いです。ただ、それまでの展開で主人公達が危なかったりします」

「その方が、喜ばれるの?」

「そうでしょう。誰も、哀しい結末を望まないものです。いや、中には悲惨な終わり方をする話も――」

「それは、嫌よ」

「ですが、この話は違います」

「素敵だったわ」

 物語に登場する主人公とヒロインに感情移入をしている読者は、大団円を望む場合が多い。しかしダレスが語るように一部の本の中には大団円の逆の展開で終わる話も存在し、それはそれで現実的といっていい。それに全ての読者が、いい終わり方を望んでいるわけではない。

 それでもフィーナは物語の中だけでも幸せな終わり方を好み、悲劇的な終わり方をする話は嫌いだという。現在の置かれている状況を考えれば創作の中だけでも幸福な展開を求めるのは自然そのもので、それに対しダレスは好き勝手に意見を言ってはいけないと言葉をつむぐ。

「ねえ、ダレス」

「何でしょうか」

「二人は、結婚するのかしら」

「その後どうなったかは書かれていませんが、フィーナ様がそのように思われるのならそうでしょう」

「本当!?」

「物語というのは、創作する者によって幾重にも変化していきます。ですので、フィーナ様が考えられる話も有り得るということです。あのような幸せな終わり方をしましたので、フィーナ様が考えられた続きが似合います。この言い方は、完全に母の受け売りだったりします」
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