新緑の癒し手

 厳しい言い方をすれば「何処の馬の骨ともわからない」というのが、正直な言い方だろう。物語の中では何ら躊躇いもなく多くの者が両者を祝福しているが、現実となれば難しい。特に人間は身分が違う者に対して厳しく当たる傾向があるので、所詮これは夢物語である。

 そのようなことを言わず、物語の中だけでも自分の理想を投影した夢を見ればいいという意見も聞こえなくもないが、現実を知り現実の悪い面を多く見てきているダレスはどうしても夢を見ることに臆病になってしまい、その結果フィーナの菓子の件も簡単に諦めてしまった。

「次の本……いいかしら?」

「ああ、そうでした。どのような話が、宜しいでしょうか? これは、魔法を使う者が登場します」

「魔法?」

 聞き慣れない単語に、フィーナは首を傾げている。そもそもこの世界に「魔法」という不可思議な力は存在せず、唯一登場するのは物語の中で、幻想の世界を主体とした本を読む人物でなければ知らない単語。

 その単語を知らないのなら彼女に一から説明しないと、ダレスは魔法が登場する本を探す。一冊の本を手に取ると、魔法を使用している絵が描かれている部分をフィーナに見せながら、「魔法」がどのようなもので、どのように使用されているのか物語に沿って話し出す。

 物語の中に登場する「魔法」という力は、一種の不可思議な力といっていい。呪文と呼ばれている魔法の発動に欠かせない言葉を詠唱し、力を解放する。それは人知の超えた力で多くを破壊し、現在に存在していれば危険と恐れられ禁忌の力と呼ばれているに違いない。

 しかし非現実的の不可思議な力というものは、誰もが憧れを抱いてしまうもの。幼少の頃、この本を読んだダレスも「魔法」という単語に惹かれ、自分も使用できないかと想像したという。更に呪文を声に出して読み、本当にこの力が使えるかどうか試した経験を持つ。

 今では考えられない可愛らしい幼少時代の出来事にフィーナ口許に手を当てるとクスっと笑い出すと、ダレスにもそのような時代があったのだと複数の要因を絡めた言い方をする。

「はい。昔は……」

「今は?」

「今は、何と申しますか俺は様々な物に触れてしまった影響で、純粋な一面はなくなってしまったのかもしれません。ですが、フィーナ様の想像を否定しているわけではありません。あのような想像力は、素晴らしいものです。物語を作るなど、容易ではないと聞きます」
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