新緑の癒し手
右目が真紅で、左目が青。それぞれの瞳の色は、ダレスの両親の瞳の色を受け継いでいるという。そしてこの瞳の持ち主である両親のことを尊敬しており、特に母親は立派な人物だったと語る。
彼が緑柱石の髪を持っているということで巫女の力を受け継いでいると思われるが、残念ながらダレスは癒しの力を受け継いではいない。癒しの力を受け継ぐのは女であり、異性のダレスは異端の存在。
「ダレスの母親は……」
「亡くなっています」
フィーナは、そのような意味で尋ねたのではない。今フィーナが巫女の力を受け継いでいるということは、ダレスの母親が亡くなっているということはわかっている。彼女が聞きたいのは、女ではなく男を産んでしまった巫女はどうなってしまったということであった。
「聞きたいですか?」
「えっ!?」
「聞きたいと仰るのでしたら、話します。ただ、話せることと話せないことがありますが……」
しかしそのように言われると、フィーナの性格上「聞きたい」と、言い難い。それなら巫女の立場を利用し根掘り葉掘り聞き出すことも可能だが、これもまた彼女の性格を考えると難しい。
それにダレスが漂わせている雰囲気が、冷たいものへ変化したことに気付く。だが彼は相変わらず顔の筋肉を動かさないので、冷たい雰囲気を感じ取っても心の中までは理解できない。
「いえ、いいです」
「わかりました」
流石にこれ以上、ダレスのプライベートをあれこれと詮索するわけにはいかない。勿論、これによって全ての疑問が解決したわけではない。どうして、母親のことを語りたくないのか。それに、何故表情を出さないのか。
喜怒哀楽を外に出さないのには何か特別な理由があるのは間違いないが、彼がそのことについて語ることはない。謎が多い、ダレスという人物。それでも「嫌い」という感情は湧いてこない。
「あの……勉強を……」
「はい」
そうダレスは返事を返すと、中断していた講義を再開する。彼が次に行う講義の内容というのは、彼女が苦手としている神学。講義の内容が内容なのですぐに理解できるものではないが、ダレスが根気強く丁寧にそして細かく教えてくれるので何とか付いていくことができた。