新緑の癒し手
「宜しいでしょうか」
「ええ」
「以前の科目は……」
「今日は、地理がいいわ」
「地理……ですか」
「ダレスから借りた本を読み、地理に興味が出て……世界ってどうなっているのか知りたいの」
「そう、望むのでしたら」
いつもの彼女と違い、今日は自分から勉強したい科目を設定する。何事も興味を持つことは素晴らしいことであり、興味を抱いて勉強を行えば自ずと自身の知識の一部として吸収されていくということを知っているので、ダレスは今日の講義をフィーナが好む地理とした。
しかし、肝心な部分を忘れていた。普段勉学に使用している本とペンは彼女の私室に置いてあるので、講義を行なう前にそれらを取りに行かないといけないのだが、本とペンが無くとも講義はできるとダレスは言い、第一取りに行く時間が勿体無いので対話形式の講義を行う。
「何が知りたいでしょうか」
「人間が暮している場所以外の場所かしら。沢山の種族がいると知っていても、暮している場所までは……」
「確かに、互いに交流がないと難しいです。しかし人間は、他の者達との交流を拒みまして……」
「他の方々は、どのような場所に暮しているのかしら。森の中、山の中……世界は広いと聞いたわ」
「全体的な割合で言いましたら人間が一番多いですが、それ以上に世界は広かったりします」
「他の種族もいるのよね」
「複数、存在します。それぞれが適した場所に暮らしていまして、独自の文化を築いています」
世界は平地だけで形成されているわけではなく、鬱蒼とした木々が生い茂る森や脚を滑らしたら命を落とすほどの深い谷。また、万年雪が降り積もり切り立った山々に青々とした水を湛える湖。そして忘れてはいけないのは大陸全体を覆う海で、それらは好奇心を擽り想像をかき立てる。
ダレスは全ての場所を自分の目で見たわけではないが、その高い知識を活かしフィーナにそれぞれの場所の特徴と欠点を語っていく。彼が語る言葉のひとつひとつが新鮮に感じるのか、フィーナは愛らしい瞳を輝かせながら聞き入り、時折疑問点をダレスにぶつけていく。