好きな人。
その後、いつもと同じ様に授業と休み時間を過ごした。
「渡すの?」
「えー、でも、受け取ってくれるかな?」
「はい、今年も頑張ったよー!」
「うわぁ!超可愛いじゃん!てか友チョコのクオリティじゃないっしょ!」
女子達は、バレンタインの事で頭がいっぱいいっぱいみたいで。
あたしも密かに、鞄の中のブラウニーにドキドキしていた。
そしてついに、日直の時。
「…なぁ?槇原」
黒板をふきながら、観星の背中が声をかける。
「…何?」
「………渡せたの?」
それだけで、分かった。
「…渡せて、ない…」
チョコレート。
鞄の中のブラウニーは、まだある。
「ふぅん…」
「み、観星は?」
なんか朝から、あたしばかり聞かれてずるい。
「観星はもらえたの?」
「…もらえてねーよ」
ぐ、と少し悔しそうな声で、観星はそう言った。
「…そっか」
複雑だった。
観星が悔しそうにしてる。
なのにあたし、少し嬉しいとか思っちゃってる。
…最悪だよ……。
「男子はさ、どう足掻いても自分からはどーにもできねぇんだよ。女子から渡されて、それを受け取る以外何にもできねーんだよ。…ホワイトデーも、返すしかできない。こっちから勇気出すイベントねーんだよなー…。」
観星の声が、頼りない。
「だからさ」
そこで観星が急に振り返って
「頑張れよ」
そう言って笑った。
「女子の方が、恵まれてんだから。女子の方が、チャンスあんだからよ。頑張んなきゃ、損じゃね?」
そう言って笑う観星の笑顔は、あたしに充分の勇気をくれた。
「…うん………」
そう言ってあたしは、鞄をジー…と開けた。
「…いいよ、日誌の続きは、俺書いておくから…」
渡しに行けよ、という観星のメッセージだと、分かった。
観星が黒板を消す。
あたしはその背中を見てると泣きそうになった。
観星の応援がつらいよ。
観星の応援は、あたしにとって『他の誰か』とを応援されてるって事だから。
でもあたしは、あたしは観星が好きなの。
あたしは………、あたしは観星が…
ぐい、と観星の制服の裾を引っ張った。
「な…」
観星が振りかえったその瞬間
「すっごい………、好きなんです!付き合ってください!!」
一生分の勇気なんて、分かんない事言えない。
だけど今までの中で一番の勇気は、確かに使った。