君と僕との物語
図書室の一番隅っこの席で、君が寝ていた。

図書委員の僕は鍵を片手にため息をつく。

すでに閉館の時間で、

彼女が帰らないと僕も帰れない。

起こさないと。

声をかけようとしたとき、気づいた。

君の両頬が濡れていることに。

そのしずくは、君の両目から流れ出ていることに。

そのままかける言葉が見当たらず、立ちすくんでいたら、

ゆっくりと見開かれた黒い大きな君の目と視線が合ってしまった。

気まずい。

そう思った瞬間、

君は笑った。

『ごめんなさい。寝ちゃってたのね』

何事もなかったかのように。

教室で見せる笑顔と何も変わらない君がそこにいた。

その瞬間に、不意に抱きしめたい衝動に駆られた。

あの時の泣き顔と同じく、

笑顔で世界と僕がこれ以上踏み込んでくることを拒む君を、

そんな風にさせてしまう何かから守ってあげたくて。

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