君と僕との物語
『聞かないの?』

ある日、唐突に君が聞いた。

何を?と聞くと。

『どうして私が図書室に来るのか』

『……来たいから来るんだろ?』

君が来る理由。

たぶんそれは帰りたくないから。

わかっていたけれど、

それを僕に聞く権利はない気がした。

あれだけ人目を気にせず泣くほどの何か。

その何かは、興味本位で聞ける内容ではない。

『……優しいね』

君は少し泣きそうな顔をした。

『あなたになら、話してもいいって思ったの』

心にいっぱい抱えきれなくなった何かを。

僕は静かに聞いた。

『失恋、したの。それだけよ』

その言葉を口で転がす君は泣きそうで、

だけど君は僕の前では泣かない。

確信的にそう思った。

雨が降ればいいのに。

真っ赤に染まった夕日は夕立を連れてくる気配がない。

だから、君は泣けない。


< 14 / 43 >

この作品をシェア

pagetop